久木田睦夫

 朝、起きがけに400〜500mlの水を飲む。1日の必要量は、体格、年齢などに応じて1.5〜2.0lとされているが、この年齢なので(注、久木田睦夫氏は1914年生まれ)1.0lを目安として、毎食前に飲むよう心がけている。余り冷たい水は体を冷やすので、少しお湯を加える。水分補給をお茶、コーヒー、ジュースなどに求めず、水で補給するように心がけている。

【朝食】

 炊きたての麦入りごはんに生たまごをかけて混ぜ合わせ、フタをしてしばらくおくと半熟状に近くなり、吸収がよくなる。これに、のり類をかけて食べる。のり類に含まれるビタミンB12は、たまごの「コリン」(ビタミンBの仲間)をアセチルコリンに合成するのを促進させるだけでなく、B12は神経細胞に最も多く含まれるビタミンで、この両者が相俟って、神経細胞を活性化し、記憶力の増進やボケ防止にもなるとされている。
 味噌汁は、具だくさんにする。具は、ワカメやコンブなどの藻類、しいたけ等キノコ類、高野豆腐、大根、カブ、小松菜、玉ネギその他、チンゲンサイ、ホーレン草など季節の野菜をなるべく種類を多くする。食材の多くは、味噌と合わせることによって栄養上の相乗効果が得られることがわかっているので、これらの食材をいっしょに味噌汁にぶちこめば、一挙に味噌と合わせることとなり、調理、あと片付けが簡単で、時間の節約にもなる。とくに高野豆腐は欠かさず入れる。
 【トマト、ピーマン、果物】
 トマトは大きいものよりミニのほうが、同量の目方、含有量なら表面積が大となり、皮の部分に含まれる「リコピン」の量が大となる。リコピンは、老化やガンの発生の元凶とされる活性酸素が粘膜や細胞を傷つけるのを防いでくれる。リコピンはスイカ、ピンクグレープフルーツなどにしか含まれていない貴重な成分(カロチノイドの一種)である。生で食べるより熱を通したもののほうが効果が大きい。また、加工用のトマトはリコピンの含量が多い上に、市販のトマトジュースは加熱して作られているので、ジュースで摂るのもよい。
 ピーマンは、朝はチンして塩・コショーで食べる。ピーマンにはβ-カロチン(カロチノイドの一種で、体内に入るとビタミンAになる)、ビタミンC、ビタミンEが多く含まれる。ビタミンCはピーマン3個で1日の必要量が得られるほどである。老化を防ぐと云われるビタミンEの含量は野菜の中ではトップクラスである。Eは油にとけるので油いためはより効果的である。また、心筋や脳の梗塞を防ぐ「ピラジン」を含む貴重な食材でもある。ピーマンは10°Cで60日も保存できる。また、ピーマンのビタミンCは熱でこわれ難い。しかし長時間加熱は歯ざわり、色を悪くするので強い火で素速く加熱する。
 果物は、季節のものをつとめて食べるようにする。食後より食前に食べるのが、2つの理由でよい。ひとつは、果物には酵素が豊富に含まれており、生の新鮮な酵素を先ず摂り入れることと、もうひとつの理由は、食事を腹八分目にしやすくするためである。
 ココアと黒砂糖を加えたインスタントコーヒーを食後に1F(注、久木田睦夫氏のアトリエ)で飲む。なぜインスタントコーヒーにココアと黒砂糖なのか、次の成分表(食品成分表2006版)で納得できると思う。1Fで飲むわけは、別室にすることで気分があらたまり、たのしい気分になるからである。

ミネラル

コーヒー浸出液
インスタントコーヒー
ココア
黒砂糖

ビタミン

コーヒー浸出液
インスタントコーヒー
ココア
黒砂糖
カリウム
カルシューム
マグネシューム

亜 鉛
マンガン

B12
ナイアシン
葉 酸
パントテン酸
食物繊維

(100gr中、mg)

 亜鉛は活性酸素を除去するエンザイムに欠くことのできないミネラル。従って免疫力に関わりがある。またproteinの合成にも関与する。不足すると成長・味覚障害を起す。

【昼食】

 果物、トマト、ピーマン、ごはん、味噌汁は朝食と同じ。
 イワシなど青魚、サケ、タラ、タラコ(スケソウダラ)、イカなど旬のものの中から、食べたいものを選ぶ。また、週1〜2回はシジミ、アサリなどの貝類をなるべく食べるようにする。
 シジミは、ビタミンB1、B2、B6、B12、なかんずくB12の宝庫である。B12は動物だけしか作ることのできない貴重な成分で、神経細胞に必要なビタミンである。記憶力の低下、イライラ、不眠症などにB1、B6、B12が用いられ症状の改善が確認されているし、最近はボケ防止にもなると注目されている。また他のビタミンと違って長く体内に貯蔵されるので、摂り過ぎても無駄にならない。従って毎日摂る必要もない。また、シジミにはオルニチンと称する非常に大切なアミノ酸が含まれており、ホルモン分泌の総元締である脳下垂体(脳の中心部に垂れ下っている、大豆大の小さな組織)が正常に機能するために必要なアミノ酸である。アミノ酸は約500種類あるが、このうち体内でタンパク質になるのは20種類だけで、その他のアミノ酸はタンパク質にはならない遊離アミノ酸と呼ばれ、体内を巡って様々な働きをしており、多機能アミノ酸と呼ばれている。シジミは肝臓にもよいとされており、酒をたしなむ人にはおすすめの食材である。このシジミの効力については、7〜8年前の自分の体験だが、定期検診で肝機能が低下していることがわかった。そこで、シジミの味噌汁を積極的に飲んでみることにした。はじめのうちは毎日、その後は1日おきとし、さらに週2〜3回に減らしながら半年ぐらいつづけたところ、正常に復していることが確認された。その後も正常な状態がつづいている。
 また、このマンションの管理人の日津さんが、やはり定期検診で肝臓が悪いと云われたとのことで、何かいい方法はないかと相談を受けた。そこでシジミをすすめたところ、その翌年の検診では改善され、その後もシジミを食べつづけており、今年の検診でもOKだったとのことである。
 タラコ(スケソウダラ)については、これも5〜6年前の自分の体験だが、心電図で心臓の異常(心房細動)が見つかり、しばらく様子をみようということになった。心臓の働きをコントロールする酵素は腎臓で作られて分泌されるが、これにはナイアシン(ビタミンB3の成分のひとつ)とチロシンというアミノ酸が関与することがわかっている。この両物質が共に含まれているのはスケソウダラのタラコ(不思議なことにカラシメンタイコには含まれていない)で、その含有量も多いことを食品成分表(2006)で知った。そこで自分で人体実験のつもりで試してみた。3〜4か月続けた結果、翌年の検診では改善されていることがわかった。食べる量は、毎日であれば親指の半分位で十分である。たくさん食べると食塩の摂り過ぎとなり、かえってよくない。
 食後に、カンキツ類の皮を24時間浸けた黒酢を熱湯で割り、ハチミツを加えて飲む。
 腎臓は最も早く老化する臓器だと云われている。腎臓は老廃物を体外に尿として排出する働きが第1に挙げられるが、第2に、われわれの体は僅かに酸性になっているが酸性になり過ぎては大変なことになり、ひどくなると死に至る。そうならないように、肺との共同作業で、酸性度を一定に保つよう調節している。さらに血圧を調節するホルモンが腎臓で作られているし、赤血球を作るホルモンもここで作られている。このように非常に大事な働きをしているが、これを大切にすることが長寿につながる。それには、腎臓に限ったことではないが、活性酸素から守ることが先ず第1である。
 お茶類にはカテキンというポリフェノールが含まれているので、食後の緑茶は欠かさず飲む。次に、体に含まれる余分の塩分は腎臓を通って尿中に排出されるが、その一部を便から排出するようにすれば、その分だけ腎臓の負担が軽くなる。そのためには、水溶性の食物繊維(フコダイン)を多く含むモズク、ワカメ、メカブ、コンブなどの海藻類を摂るようにする。中でもモズクに圧倒的にフコダインが多く含まれている。
 さらに大事なことは、腎臓に細菌やウイルスが侵入しないようにすることが大事であるが、それにはカンキツ類の皮に含まれる「ミネフリン」が気管を拡張する作用があるので有効とされている。このミネフリンは酢に溶けるので、できれば黒酢に1晩浸けてミネフリンを溶出した酢を飲むとよい、ということになる。浸ける時にショーガを加えると、なおよい。また、腎臓は寒さに弱い臓器と云われている。腎臓は臍の裏側の背中の左右両側に2個あるので、この部分を冷やさないよう、とくに寒期外出時などは自分なりの工夫をして冷やさないようにする。

【午後3時のお茶】─粉茶と小豆

 緑茶にはいろいろな成分が豊富に含まれているが、浸出液にはカテキン(ポニフェノールの一種)とビタミンCぐらいで、その他の成分は溶出されない。水溶性のビタミンCでも浸出液に出てくる量は僅かに2〜3%に過ぎない。従って緑茶の成分をすべて摂るにはお茶のダシガラを捨ててしまわないで、料理などで工夫して摂るとよい。その点、粉茶は粉末状になっているので、飲もうと思えば飲めないことはない。粉茶については食品成分表では取扱われていないので、残念乍ら浸出液の成分はわからないが、亜鉛が溶出しているとのデーターがある。抹茶は全部を飲むわけだから、これはすばらしいお茶ということになる。粉茶は公式の成分表に出ていないので何んとも云えないが、緑茶の成分を有効に利用するには、抹茶に次いでいいのでないかと思い、粉茶を飲むことにしている。

せん茶

同浸出液

抹 茶


せん茶

同浸出液

抹 茶

ミネラル
カリウム
カルシューム
マグネシューム

亜 鉛
マンガン
ビタミン

B1
B2
B6
ナイアシン
パントテン酸

葉 酸

β-カロチン

-
-

(100gr中、mg)

 小豆は活性酸素を消去する抗酸化物質の含有量が抜群に多い。ビタミンCと一緒に摂ると相乗効果が得られるので、サツマイモと一緒に煮たものをオヤツにするとよい。小豆あんこの場合は、こしあんでなく粒あんのものでないと、抗酸化物質を摂る目的からすると意味がない。

【夕食】

  【夕食の果物、トマト、ピーマン】
 朝食、昼食ではピーマンはチンして塩・コショーだが、夕食ではベーコンいためか、油だけの時にはエキストラ・バージン・オリーブ油を用いる。市販されている油は、圧搾法でなく化学溶剤を用いた製法のものが大部分であるが、この製法による油はトランス脂肪酸(自然界には存在しない)に変っており(ガン、高血圧、心臓疾患の原因となる)、欧米では食物に含まれるトランス脂肪酸の上限値を定め、それを超えるものは販売が禁止されている。しかし日本では、このような定めがなされていない。トランス脂肪酸を最もたくさん含んでいるものにマーガリンとショートニングがあるが、これらは絶対にさけることにしている。エキストラ・バージン・オリーブ油は圧搾法で製油されているので、油いためには、これを用いる。但し、量は極力少くし、脂肪分の摂取は、魚介類から摂ることを基本にするよう心がけている。
 油の主成分である脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とがあり、後者が善玉とされている。植物の不飽和脂肪酸は酸化し易い難点があるが、魚介類の不飽和脂肪酸は安定しているので魚介類から摂るよう心がける。
 植物性の脂肪酸は、今日の日本人の通常の食事であれば、穀類、豆類、種子などから充分摂っている。しかし食をたのしむということも大事なことなので、例えば天ぷらの好きな人は、大いに楽しんで食べればよい。しかし、毎日のように天ぷらを食べるのはよくない。週1〜2回程度にとどめたほうが健康上よいし、また、そのほうが食べる時のたのしみが倍増され食をたのしむ点からもよい。
 なぜ脂肪分は魚介類から摂ることを基本にするのがよいかと云うと、魚介類には人間の体にとって非常に重要な成分を含む油があるからである。なかでも、とくに重要なのはDHA(ドコサヘキサエン酸)である。この不飽和脂肪酸は、脳や目の神経細胞内にたくさん含まれている。ということは、脳や目の神経細胞には欠くことのできない非常に重要な成分だということである。DHAは脳細胞を活発にし、心血管系の病気予防、ボケの防止、子供の脳の発達にも関係している。
 このDHAをたくさん含んでいる魚介類は次の通りである。(食品成分表2006より算出)
あじ開き干し
うなぎ
しらす干し
秋かつお(生)
イクラ
スジコ
ぎんざけ
すけそうだら(生)
すけそうだら(たらこ)
にしん
にしん(身欠き)
はたはた(生)
はたはた(生干し)
ぶり
まさば
大西洋さば
さわら(生)
さんま(生)
うるめ丸干し
まいわし(生)
めざし

(可食部100gr中、mg)

  【納豆と玉ねぎ】
 納豆は、よくかきまぜ(100回位)、細切りして20〜30分さらした玉ネギを加え、タレとカラシで食べる。玉ネギは細かくきざんでさらすことによって、酵素(アリイナーゼ)が出てくる。
 納豆は、これの右に出るものはないのではないかと思われるほどのすぐれた醗酵食品である。B2が抜群に多い。また、血栓を溶かす酵素(ナットーキナーゼ)が含まれている。血栓症は夜間に発症することが多いと云われているので、夕食時に摂るようにしている。稲ワラで作ったものは、植物性食品には含まれないB12が含まれることがわかっているが、最近は入手し難く、残念なことである。大豆の良質のたんぱく質が醗酵によってアミノ酸に分解しているので、吸収され易いだけでなく、味もよくなる。納豆には1gr中に10億もの納豆菌が含まれていると云われ、整腸効果があり、血管を丈夫にし、脳の老化を防ぐと云われている。また、カルシューム、マグネシュームを多く含んでいるので、骨を丈夫にするなど、非常にすぐれた食品であるので夕食には欠かさず食べることにしている。
 玉ネギは、血管をしなやかにする、血管内での血液の凝固を防ぐ、血糖値を下げる、体脂肪の燃焼をよくする、消化器官の免疫力を高める、などの効果があるとされている。前記の通り、納豆をよくかきまぜたものに、細かにきざんでしばらくさらした玉ネギを混ぜ合せることによって、この両食材の酵素がともにとり出された状態で食べることになり、養分を有効に摂り入れることになるし、味もよくなる。
  【ジャガイモ】
 夕食時は、ごはんは食べず、ジャガイモ1個(100gr位)を電子レンジで加熱し、少量のバターと塩味で食べる。ジャガイモはデンプンの宝庫である。その含有率は秋イモが約17.5%で、夏イモ(8.4%)に比べて著しく高い。ジャガイモは、しかし、カロリーが低く、100grのカロリーは80kcalで、ごはんの1/2杯(約55gr)、食パン1/2枚(6枚切り)、うどん玉1/3個分に相当する。
 その上、消化吸収がゆっくり行われる特性があるためインシュリンの分泌も徐々に行われるため、脂肪となって体にたまりにくい。またジャガイモは、意外なことにビタミンCを豊富に含んでいる。ビタミンCは水溶性なので、体内にとどまる時間が短いが、ジャガイモのCは体内に長くとどまる利点がある。デンプンと一緒に行動するためと考えられている。また、加熱にも強い。電子レンジで加熱するとさらに吸収のスピードがゆっくりとなり、2〜3時間は体内にとどまると云われている。
 昼間の活動によってそこなわれた体のダメージは夜間に修復されるが、これにジャガイモが非常に役立っていると云われているので、夕食に食べることにしている。またカリウムが豊富に含まれている上に、ジャガイモのデキストリンは水溶性の食物繊維であるから、腎臓のナトリウム排出の負担を軽減するのにも役立っている。
  【そば】
 ジャガイモの他、夕食時にそばを食べることにしている。そばには血管を柔軟にし弾力性を高めるルチンが含まれている。マグネシューム、ナイアシンを多く含んでいる。ナイアシンはゆで湯に溶出される。そばを食べると体温が上昇し、30分位は持続する。ゆで湯を呑むとさらに上昇の状態がのびる。疲労快復によいし、体温上昇は免疫力を高める。
  【日本酒2合】
 
 以上の食材を、ひとり暮しの、シルバーメニューの必須食材として、毎日欠かさず食べるようつとめている。この他にも、養分的にすぐれた食材がたくさんあるので、食べたいものがあれば積極的に食べることもまた、非常に大事なことだと思っている。

【腹八分目ということについて】

 昔から腹八分目が健康によく、長寿につながると云われてきた。江戸前期の貝原益軒(1630〜1714)の養生訓がそのルーツである。最近行われたアメリカの大がかりな調査研究によれば、8分でも多過ぎる、6.5分がよいとの報告がある。しかし、これはアメリカ人を対象にしてのことであり、今日の日本人の通常の食事から考えれば、やはり従来云われてきた腹八分目が目安でよいではないかと思う。
 食物が体内に摂り入れられると、体内で作り出される各種酵素によって消化され、分子レベルまで細分化されると吸収され、血管を介して全身の細胞にくまなく配ばられ、神秘的としか云いようのない複雑・微妙な生命の営みが、酵素(エンザイム)の働きによって行われる。生命のすべての営みに使われているこれら酵素の種類は、今わかっているだけでも5000種をこえると云われているが、今後の研究でさらに新たなものが追加され、その数は増えつづけるものと思われる。なぜ、これほどまでに莫大な種類の酵素が必要なのかと云えば、それぞれの酵素は、ただひとつの働きしかできないからである。例えば、唾液に含まれるアミラーゼはデンプンにしか反応しないし、胃液に含まれるペプシンはたんぱく質の分解にしか関与しないからである。生命現象のすべてにそれぞれの酵素が働いているために、このように莫大な種類の酵素が必要となるわけである。
 たんぱく質性の触媒であるこれらの酵素は、細胞内で作られることはわかっているが、どのようにして作られているのか、仮説はあるが、まだよくわかっていない。
 僕が農林省の農林水産技術会議(農林水産業に関する研究機関の人事・予算・研究の推進などを取扱う)に勤務(1961〜1968)していた時の仕事のひとつに、栄養についての全国の関係研究者によるプロジェクトチームによる5か年計画の特別研究の推進を担当したことがあったが、当時は「酵素」のことなどはまだ全く話題にも出なかったし、今日においても、例えば国の研究機関を総動員して行っている食品成分分析でも、今なお酵素については手がつけられていない。従って、数年毎にまとめられ公表されている「食品成分表」にも酵素は記述されていない。しかし、今、世界中の学者がこれの解明に取組んでいる。
 酵素の研究の第一人者と云われているアメリカのエドワード・ハウエルの説によれば、まだ仮説であるが、人間が一生の間に消費する酵素の量は限られており、これを使い果せば生命も終ると考えている。とすれば、自分の体内で作られる酵素は貴重な命の素だから、無駄な使い方を改め、大切に使うことが健康・長寿につながることになる。アメリカのアルバート・アインシュタイン大学の新谷弘実教授は、酵素について次のような仮説をたてている。
 数千種にも及ぶ莫大な種類の酵素が、それぞれ作られるのではなく、原型となる酵素が作られて、それが必要に応じてそれぞれの酵素に作り替えられて、必要な場所で使われているのではないかと考えている。動物でも植物でも生命のあるものには必ず酵素がある。これらの食物から摂り入れられた酵素は、そのままの形で吸収されて働くわけではなく、殆んどの食物の酵素は体内で消化され分解されて、ペプチドやアミノ酸の形で吸収される(大根や山芋の酵素のように、口や胃でそのままで酵素として働くものもあるが、例外的である)。これが酵素の原型の材料となり、必要に応じてそれぞれの酵素として働く。従って、酵素を豊富に含む食物を摂ることで、それが材料となって酵素の原型が蓄えられることになる。
 この酵素を、如何にして無駄な使い方をしないで上手に活用するかが、日常の健康に、ひいては長寿につながることになる。食物をたくさん摂り入れれば、それの消化・吸収に必要な酵素が消費される。体の健康を保つために必要な量をこえて多量の食物を摂れば、その分、余分な酵素を消費することになり、その分、寿命がちぢまる。それだけではない。加齢とともに消化器官の機能が衰えると、過剰な食物は未消化のままとり残され、腸内で腐敗することとなり、いろいろな悪影響を及ぼす。そして、そのあと始末にまた貴重な酵素が無駄に消費される。納豆などの醗酵食品がよいのは、そのすぐれた栄養分によることは勿論であるが、醗酵によってアミノ酸に分解されているので、その分、酵素の節約にもなることの意味も大きい。
 以上が「腹八分目」が如何に大事かの今日的説明である。

【高野豆腐(凍り豆腐)について】

 高野豆腐は、脳下垂体の機能を正常に働かせるのに必要な遊離アミノ酸(アルギニン)を多量に含んでいる。脳下垂体は、脳の中心部から垂れ下っている丸みを帯びた大豆ぐらいの大きさの小さな器官で、ホルモン分泌の中枢的な役割をしている非常に重要な器官である。アルギニンの他にシジミに多く含まれる「オルニチン」やカツオ節に多い「フェニールアラニン」もアルギニンと同様な働きがある。高野豆腐には、このフェニールアラニンも多量に含まれている。
 また、アルギニンにはホルモン関係の他に、肝臓の機能を高めたり、老化防止によいとされている。皮膚の細胞は1か月足らずで新しい細胞ととり替えられるが、この新しい皮膚の細胞を作るのに高野豆腐は最適の食材でもある。毎日、高野豆腐を食べることによって、丈夫な弾力のある皮膚が新生される。このように高野豆腐はすぐれた性能を持つ食材である。

【抗酸化物質について】

 われわれの体では、細胞内の糖分や脂肪を、吸入した酸素で燃して得られたエネルギーによって、生命のあらゆる営みが行われて、生きている。この時、体内にとり入れられた酸素の約2%は、フリーラジカル(体内で制御を失った酸化剤で、細胞に破壊的なダメージを与え、ガン細胞になったりする)、とくに活性酸素となって残る。
 この活性酸素は、外から侵入してきたウイルスや細菌、カビなどを退治して感染症にならないように防いでくれるよい面もあるが、量が増えると、細胞膜や細胞内のDNAにもダメージを与える。しかし、われわれの体には予めこれを防御するシステムが備わっている。その代表的なものはSOD(スーパー・オキシド・デイスムターゼ)という酵素である。この酵素を出して活性酸素をとり除いてくれる。しかし、40歳を過ぎた頃からだんだんこの酵素を作る機能が衰えてくる。そこで、この活性酸素から体を守るために、抗酸化物質を豊富に含んだ食物を食べることが必要となる。
 この抗酸化物質を作ることのできるのは植物で、動物にはその機能がない。植物の葉の葉緑素(クロロフィル)は、太陽の光と炭酸ガスによって光合成を行ってデンプンを作るが、その過程で大量の活性酸素が発生する。葉緑素には活性酸素を消去する機能が備わっているが、植物体を守るためには、抗酸化作用を持った物質を自ら作らなければならない。それがビタミン類やカロチノイドやポリフェノールである。われわれの体には、この抗酸化物質を作る機能が備わっていないので、植物が作ったこれらの抗酸化物質を食としていただくしかない。野菜や果物を摂らなければならないのはこのためである。
 食用にしている果物や野菜で、現在知られている抗酸化物質は約50種ぐらいあるが、なかでもとくにすぐれているカロチノイドは、次の5つである。
 1.α-カロチン(人参、カボチャに多い)
 2.β-カロチン(人参、小松菜、ホーレン草、ブロッコリなどに多い)
 3.リコピン(ミニトマト、加工用トマト、スイカなどに多い)
 4.ルチン(ホーレン草、そばに多い)
 5.ゼアキサンチン(セリ、クレソン、ホーレン草、オクラなどに多い)
 以上のカロチノイドは油にとける脂溶性であるが、水溶性のものもある。それがポリフェノールである。その中でとくに抗酸化力の強いのは、次の4つである。
 1.フラボノイド(玉ネギ、レタス、トマトなど)
 2.イソフラボン(大豆)
 3.アントシアニン(赤ワイン)
 4.カテキン(緑茶)
   クロロゲン酸(コーヒー)
 脂溶性、水溶性の抗酸化物質は、何れも細胞内に入り込んで活性酸素の害を防ぎ、ガンの発生を阻止する。細胞内は水の部分、油の部分、その境界の部分から成り、水の部分には水溶性のビタミンCが、油の部分には脂溶性のカロチノイドが、そして境界のところにはポリフェノールが入り込んで、活性酸素を除去してくれる。だからこの3つがそろって働いてくれないと片手落ちとなるので、これらの成分をまんべんなく摂ることが重要になる。
 ビタミンEは脂溶性だから、これも油の部分に入り込んで働いてくれるが、効力はリコピンのほうがはるかに強力である。面白いのは、α-カロチン、β-カロチンは体内に入ってビタミンAとして働き、視力の低下を防いだり、免疫力を高めたりし、Aにならないで残ったものが抗酸化の働きをするのに対して、リコピンはAにならないで専ら抗酸化の働きをするので、β-カロチンよりはるかに強力な抗酸化力を発揮する。

原稿について(村瀬 章氏)

 久木田睦夫氏の手書きコピー冊子『ひとりぐらしのシルバーメニュー』に著者が鉛筆で書き入れをした「自分用」をテキストにし、鉛筆書き入れ部分も本文に加えました。
 文字の表記は、漢字・仮名遣いや送り仮名など原文通りにしました(「カルシューム」「マグネシューム」「ホーレン草」「ショーガ」「云う」など)。
例外は以下の諸点です。
表記が2通りある「玉ネギ」「たまねぎ」は「玉ネギ」に、「ジャガイモ」「じゃがいも」は「ジャガイモ」に、「αカロチン」「α-カロチン」は「α-カロチン」に統一しました。
「やさい」は「野菜」に、「味そ汁」は「味噌汁」に、「食物せんい」は「食物繊維」に、「」は「皮膚」に替えました。
句読点は原文を生かしながら、読者が読みやすく誤解のないよう適宜加除しました。